生物多様性とは、特有の「個性」を持つ様々な生きものが、異なる環境の中で、互いの個性を活かしながら直接的・間接的に「つながり」あっていることをいいます。
生物多様性は、生活に欠かせない恵みを与えてくれています。生物多様性の恵みは「生態系サービス」と呼ばれ、次の4つに分類されます。生物多様性によって、これらの生態系サービスが安定的に提供されているのです。
-
供給サービス
食料、木材、水、薬品など、暮らしに必要となる資源を供給する機能
-
調整サービス
気候の調整や大雨被害の軽減、水質の浄化など、健康で安全に生活する環境をもたらす機能
-
文化的サービス
自然に触れることにより得られる文化的ひらめき、心身のやすらぎなど、精神を豊かにする機能
-
基盤サービス
光合成による酸素の生成、土壌形成、栄養循環など、人間を含めたすべての生命の存在基盤となり、上記3つのサービスを支える機能
私たちが生きていく上で必要不可欠である生態系サービスは、生物多様性を源としています。ところが、様々な要因により世界中で生物多様性の劣化が進んでいます。このような生物多様性の劣化は、4つの危機が原因となって生じています。
-
第1の危機開発など
人間活動による危機私たち人間が、道路や工場、ビルや家などをつくるために、木を切ったり海を埋めたりすることで、生きもののすみかを奪ってしまいます。また、漁業や狩猟などによって生きものを取りすぎることにより、絶滅の危機が生じたり生態系のバランスが壊れたりしています。
-
第2の危機自然に対する
働きかけの縮小に
よる危機人間が間伐や草刈りなどの手を入れることで保たれていた里山が、生活様式の変化により手入れされずに荒れてきています。また、狩猟者の減少などにより、イノシシや二ホンジカなどが増え、生きもののすみかとなる生態系に影響を与えています。
-
第3の危機人により
持ち込まれたものによる危機人の手によって、他の地域などから持ち込まれた生きものを外来種といいます。外来種の中には、そこに元々いた生きものを食べたり、すみかを奪っているものがいます。また、人間活動により自然に存在しない化学物質が排出され、空気、水、土などが汚され、生きものがいなくなっています。
-
第4の危機地球環境の変化に
よる危機私たちの暮らしや事業活動から出る二酸化炭素などの温室効果ガスにより、地球の平均気温が上昇する地球温暖化が進み気候が変化しています。この気候の変化が生態系に影響を与え、生きものの生息・生育に大きな影響が出ています。
生物多様性の危機に対して、国際的には、生物多様性の保全や持続可能な利用のための包括的な枠組みとして平成4(1992)年に採択され、取組が進められてきました。地球サミットで同時に署名が開始された気候変動枠組条約とは「双子の条約」と呼ばれています。
2021年から2022年にかけて、生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)が開催され、「昆明モントリオール生物多様性枠組」が採択されました。
新枠組では、2030年ミッションとして「生物多様性の損失を止めて逆転させ、回復への軌道に乗せるために緊急の行動を取る」といういわゆる「ネイチャーポジティブ」が掲げられ、それに向け、2030年までに陸域及び海域の少なくとも30%を保護する30by30(サーティ・バイ・サーティ)を含む23のグローバルターゲットが設定されました。
⽣物多様性と気候変動には密接な関係があります。IPBES-IPCC 合同ワークショップ報告書※1では、⽣物多様性と気候変動の⽬標は相互に関係し、これらの⽬標達成は⼈々の良質な⽣活に⽋かせないと説明しています。
※1 IPBES-IPCC 合同ワークショップ報告書概要(令和3年6⽉ 21 ⽇ 環境省)
※グレー⾊の⽮印は脅威、緑⾊の⽮印は機会(貢献)を表す⽣物多様性、気候変動及び⼈々の良質な⽣活の関係
気候変動は⽣物多様性の第4の危機であり、⽣物多様性損失の直接要因の⼀つです。地球温暖化がこのまま進⾏すると、今世紀後半には最⼤の損失要因となる可能性があり、⽣態系サービスを享受する私たちの⽣活にも⼤きな影響を与えると考えられます。
⼀⽅、⽣物多様性は調整サービスを通じて、気候変動の緩和と適応に貢献します。例えば、⽣物多様性が豊かな森林や緑地などの⾃然環境は、植物の光合成により⼆酸化炭素を吸収する気候の調節機能を有するため気候変動を緩和します。
また、そうした環境は⾬⽔浸透や⼟壌侵⾷の抑制といった災害の調節機能などを有するため、気候変動への適応にも貢献します。
⾃然に関わるあらゆる取組を進める上で、⽣物多様性と気候変動との関係、さらには⼈々の良質な⽣活との関係を考慮する必要があります。
生物多様性の危機の一つである気候変動による影響を緩和するためには、気候変動対策を強力に進めていかなくてはなりません。一方で、気候変動対策と生物多様性保全策は、両者の取組が相互に影響を与え合っていることから、相互の相乗効果やトレードオフを考慮し、各主体が両課題の解決に貢献する取組や行動を進めていくことが必要です。